「現地法人や駐在員事務所という言葉は聞いたことがあるが、他にはどのような進出形態があるのか」
「それぞれのメリット・デメリットは何で、いつ頃から検討すべきなのか」
本記事ではこうした疑問を持つ方に向けて、海外進出における代表的な進出形態(= 海外での事業の持ち方 / 事業のスキーム)を整理し、それぞれの特徴を分かりやすく解説していく。
結論からいえば、海外進出において大切なのは特定の進出形態を「これが正解」として選ぶことではない。自社の進出目的や使えるリソース、そして進出先の国の制度に照らし合わせながら、もっとも適した形態を見きわめることが重要である。また、進出形態の検討は進出国を1つにしぼりこんだ後に行うのではなく、候補となる国を検討し始める初期の段階から並行して進めるのが良い。国によっては選べる進出形態そのものが制約されるケースも多く、早い段階で整理しておくことで手戻りの少ない判断につながる。
本記事では10の代表的な海外進出形態について、進出のハードルが低い順に整理したうえで各々のメリット・デメリットを比較する。これから海外進出を検討する際の判断材料として、まずは全体像をつかむために活用していただければと思う。
1. 10の代表的な進出形態
海外進出の形態は1つではなく、投資額やリスク、意思決定権の範囲によっていくつもの選択肢がある。大切なのは、自社の進出目的や使えるリソース、進出先の国の制度に照らし合わせてもっとも適した形態を選ぶことである。以下では、10の代表的な海外進出形態について、進出のハードルが低い順に整理していく。
1.1. 越境EC
メリット
越境ECを活用することで、拠点を持たずに海外市場へアクセスでき、初期投資をできるだけ小さくおさえられる点が大きなメリットである。短い期間で始められ、複数の国を横断的に試せるため、海外需要があるかどうかを見きわめる手段として使いやすい。事業がうまくいかなかった場合でも撤退しやすく、柔軟性が高い進出形態といえる。
デメリット
一方で、物流の部分や顧客体験をこまかくコントロールすることはむずかしい。関税や売上税、返品対応など、国ごとの実務対応が少しずつ積み重なり、運営の負担が増大するケースも多い。結果として、スケールメリットによる効率化は効きにくく、一定規模を超えると事業を成長させづらいという点はデメリットといえる。
1.2. 商社経由 (= 間接貿易)
メリット
商社を介した間接貿易は、海外取引や物流、契約実務などの業務を商社に一任できるという点が最大の利点である。国内取引に近い感覚で海外販売を始められ、輸出実務の負担やリスクを大きくおさえられる。海外進出の第一歩として、とりくみやすい形態といえる。
デメリット
消費者への販売価格や販売経路については商社主導となり、自社で市場や消費者体験をコントロールすることはできない。顧客情報や市場データがたまりにくく、ノウハウが自社に残りにくい点も課題である。
1.3. 自社輸出 (= 直接貿易)
メリット
自社主導で輸出を行うことで海外顧客と直接取引ができ、価格や契約条件を自社で管理しやすくなる。拠点を持たずに海外での販路を広げられるため、投資をおさえつつ事業を進められる点もメリットである。顧客基盤づくりにもつながるため、中長期の本格的な海外展開を見据えた形態として有効である。
デメリット
当然ながら、物流や通関、代金回収などの実務はすべて自社で対応する必要がある。国ごとに税務や契約上の論点が異なり、売上規模が大きくなるほど管理の難易度は高くなりやすい。
1.4. 販売代理店経由
メリット
現地の販売代理店を活用すれば、彼らの営業力やネットワークを使って比較的低いリスクで海外市場に参入することができる。自社で拠点をかまえる必要がなく、初期投資をおさえやすい点も魅力である。現地事情にくわしいパートナーを活用できるため、事業の立ち上がりは早いといえる。
デメリット
販売活動の主導権は代理店側にあるため、自社の戦略どおりに動かせない可能性もある点がデメリットである。また、代理店の力量や、彼らの中での自社製品の優先順位によって成果が左右されやすい側面もある。
1.5. 駐在員事務所
メリット
比較的低コストで現地に拠点を設けられ、市場調査や情報収集を行える点がメリットである。現地関係者とのネットワークづくりや本格進出前の準備拠点として使いやすく、将来の法人設立を見すえた足がかりとして設置するケースは多い。
デメリット
原則、駐在員事務所としての営業活動や売上の計上は認められないため、事業としての収益は生まれない。売上を上げられないため、長期的な活動を前提とした設立形態としては適さないといえる。事業として成長させるには、いずれは法人設立や現地パートナーとの連携へ移行する必要がある点に注意が必要である。
1.6. フランチャイズ
メリット
フランチャイズ形式では現地パートナーの資本と運営力を活用しながら事業を拡大できる。自社の投資負担をおさえつつ、比較的短い期間で多店舗展開が可能であるといえる。飲食や小売、教育など、モデルを標準化しやすい業種と相性がよい。
デメリット
現地パートナーの運営能力に依存する部分が大きいゆえに、ブランドやサービス品質のコントロールがむずかしく、統制が弱いと逆に価値を損なうリスクもある。
1.7. 合弁会社 (JV:ジョイントベンチャー)
メリット
ジョイントベンチャー(JV)は、現地パートナーの知見やネットワークを活かしながら事業を進められる点が強みである。外資規制がある国でも進出しやすく、制度面でのハードルを下げられる場合がある。単独での進出にくらべて初期リスクを分散しやすいとも言える。
デメリット
意思決定を単独で行えず、重要な判断のたびにパートナーとの合意形成が必要となる点は大きなデメリットといえる。特に、成長戦略や投資判断、事業運営に対する考え方にズレが生じると意思決定が遅れやすく、当然ながら、スピード感のある経営が難しくなる。さらに、関係性が悪化した場合には経営判断が停滞するだけでなく、事業そのものが不安定化するリスクも抱える点に注意したい。
1.8. 支店
メリット
現地法人を設立せずに拠点を持てるため、比較的容易に進出できる事業形態の一つである。日本本社と一体で事業を行えるため、内部管理はシンプルになりやすい。短期的な拠点設置には適した選択肢となる。
デメリット
税務・法務上の責任が本社に直接およぶ点は大きなリスクといえる。国によっては恒久的施設(PE)認定などの税務論点が生じやすい点にも注意が必要だ。中長期の本格的な展開を考える場合には、慎重な検討が必要となる。
1.9. 現地法人(子会社設立)
メリット
現地法人を設立すれば、事業運営を自社の判断で行うことが可能で、本格的な市場開拓が可能になる。取引先や金融機関からの信用を得やすく、長期的な事業展開に向いているといえる。
デメリット
初期投資や人件費などの固定費の負担は大きくなる。撤退や方向転換が容易ではなく、事業形態としての柔軟性は低いともいえる。また、税務・法務の面においてもしっかりとした管理体制の構築が不可欠となる点に注意したい。
1.10. 現地企業の買収 (M&A)
メリット
M&Aは既存の顧客基盤や人材、ブランドを一気に獲得できるため、最短で市場に参入する方法の一つである。「時間を買う」進出形態として大規模な展開をねらう場合に有効であると言える。
デメリット
投資額が大きく、失敗した場合の影響は当然ながら大きい。買収後の統合や経営管理がうまくいかなければ想定した成果が得られないことも多い。買収前のデューデリジェンスと買収後の管理体制構築が不可欠である。
補足:海外ビジネスでよく耳にする「パートナーシップ」とは?
なお、「パートナーシップ」は特定の進出方法を指すものではなく、法人格を持たないケースも多い。販売代理店やフランチャイズ、合弁会社などの進出形態において企業どうしがどのように役割分担をするかを表す用語である。それぞれの進出形態の中に内包されている概念であるため、本記事では独立した進出形態としては扱っていない。
2. 進出形態はどのタイミングから検討すべきか?
結論として、進出国を1つに絞りこんだ後ではなく、候補国を検討し始める初期の段階から行うべきである。なぜなら、国によって外資規制や商習慣、参入ハードルが大きく異なり、選べる進出形態そのものが制約されるケースが少なくないからだ。あらかじめ「この国では、どの形態が現実的か」という視点を持って候補国を比較しておくことで、あとから計画を大きく修正するリスクを避けることができる。
3. まとめ
本記事では海外進出における代表的な進出形態を整理し、それぞれのメリット・デメリットを比較しながら全体像を整理した。これらをふまえ、自社の進出目的やリソース、進出先国の制度に照らしながら最適な選択肢を絞りこんでいくことが、後もどりの少ない海外進出につながる。
なお、「海外進出をもう少し具体的に検討してみたい」と感じた方は、以下の記事も参考にしてみてほしい。100社超の海外展開事例をもとに、初めての海外進出で「失敗しない」ために押さえるべき考え方と進め方を5つのステップで解説している。
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