「日本企業は、どのような地域や国に海外進出しているのだろうか」
「自社の業界、あるいはほかの業界では、一般にどの地域や国へ進出することが多いのだろうか」
このような疑問を持っている方も多いのではないだろうか。本記事では、日系企業の進出先に関するデータをもとに、主な進出先の傾向と業界ごとの特徴を整理してご紹介していく。今回の分析に使ったのは外務省が毎年公表している「海外進出日系企業拠点数調査(2021年度版 ~ 2024年度版)」である。
元となるデータを自分でも確認したい方は、以下のリンクを参考にしてほしい。
調査結果を概観すると、日系企業の拠点はアジア・北米・欧州の3地域に約9割が集中していることがわかる。この傾向は業界や業種を問わず一貫しており、これらの地域が日本企業にとって主要な進出先であることが確認できる。
本記事では、前半部分で日系企業全体の進出先の傾向を大きく整理し、後半では特に海外進出のニーズが高い以下の業界に焦点を当てながら、業界ごとの主な進出先とその背景について解説していく。
- 製造業
- 卸売業・小売業
- サービス業
- IT・スタートアップ
- 運輸業
- 医療・ヘルスケア
この記事を読み進めることで、日系企業がどの地域へ、なぜ進出しているのか、そして業界ごとにどの国や地域が主な進出先となっているのか、全体像をつかめるはずだ。
1. 日本企業全体の進出先の傾向
1.1. 結論:アジア地域への進出が圧倒的に多い
日本企業の海外進出先国を全体で見てみると、アジア地域への進出が圧倒的に多いことが分かる。外務省が公表している海外進出日系企業拠点数調査(2024年度)によれば、世界に88,290ある日系企業の海外拠点のうち、全体の約71%にあたる62,768拠点がアジアに存在している。次に多い地域は北米、つづいてヨーロッパとなっており、この主要な三つの地域だけで全体の約93%を占める。この分布をみると、多くの日本企業が海外展開において重視している地域はおおむね共通しており、進出先の選び方には一定の傾向が存在すると言ってよいだろう。

1.2. 主要三地域(アジア・北米・欧州)の国別拠点数(2024年度)
1.2.1. アジア
アジア地域の国ごとの拠点数を見てみると、日本企業の進出はごく一部の国に集中していることが分かる。なかでも中国は32,364拠点とアジア全体の中で中心的な存在となっている。これに続いて、タイ、インド、シンガポール、韓国、ベトナム、インドネシア、マレーシア、フィリピン、台湾が並ぶ。拠点数で見ると、これら上位10カ国だけでアジア全体の拠点数のおよそ97%を占めており、日本企業の進出先がかなり限られた国に集まっていることが分かる。

1.2.2. 北米
北米における日本企業の拠点は米国とカナダの2か国のみに存在し、そのほとんどが米国に集中している。拠点数ではアメリカが北米全体の約91%を占める。

1.2.3. ヨーロッパ
ヨーロッパにおける日本企業の拠点数を見てみると、ドイツが1,902拠点でもっとも多く、つづいて英国(925)、フランス(835)、オランダ(701)、イタリア(396)が並ぶ。これら上位5か国だけで欧州全体の拠点数のおよそ55%を占めている。さらに、スペイン、ポーランド、ロシア、チェコ、ルーマニアを加えた上位10か国で見ると、全体の約74%に達する。このことから、ヨーロッパ地域においても日本企業の進出先は特定の国に比較的集中していることが分かる。それ以外の国では、拠点数が数十規模にとどまるケースが多く、欧州全体として進出先となる国の数は多いものの、実際に日本企業の進出が多い国は限られているという構造がデータから読み取れる。

1.3. グローバルに見る拠点数上位の国 TOP20(2024年度)
次に、同じ調査データをもとに、拠点数が多い国のTOP20を見ていこう。拠点数の上位は、中国・米国・タイ・インド・シンガポールなどに集中しており、上位10か国だけで全体の約79%、上位20か国では約90%を占めている。この分布を見ると、日本企業の海外拠点は限られた一部の国に多く集まっているという事実が再確認できる。見方を変えれば、これから海外進出を検討し始める企業にとっては、まずこうした主要な国から検討を始めるほうが方向性を大きく誤りにくいと言えるだろう。一方で拠点数が極端に少ない国については、特定の業界がはっきりとした目的を持って進出しているケースが多い。そのため、一般的な進出先として考える場合にはややハードルが高い可能性もあるため、注意が必要である。

1.4. 直近年度の進出先トレンド(2022年度 ~ 2024年度)
最後に、過去のデータと比べながら分析を行い、直近年度における進出先の傾向について見ていく。直近3年の拠点数データを全体で見てみると、上位の国は中国・米国・タイ・インドを中心に大きな変化はなく、主要な進出先がほぼ固定化している様子がうかがえる。その一方で、アジアの新興国では拠点数が着実に増えている。インドは4,901(2022)→4,957(2023)→5,205(2024)、ベトナムは2,373(2022)→2,394(2023)→2,543(2024)、インドネシアは2,103(2022)→2,182(2023)→2,409(2024)と、いずれの国でも増加が続いている。こうした動きは、中国に生産や調達を集めすぎない「チャイナ・プラス・ワン」という考え方の広がりと重なるものである。中国が最大の進出先である点は変わらないものの、企業が周辺の地域へ少しずつ拠点を分散させていく流れがデータからも読み取れると言ってよいだろう。

2. 業界別の主要進出国とその背景
前のセクションでは、アジア・北米・ヨーロッパの主要な3つの地域における日系企業の拠点数が、全体のおよそ9割を占めている点を確認した。この傾向は業界や業種を問わず一貫して見られる。本セクションでは、海外進出する企業が多い代表的な業種や業態にしぼり、それぞれの業界について主な進出先の国とその背景、海外展開の特徴を大きく見ていく。
- 製造業
- 卸売業・小売業
- サービス業
- IT・スタートアップ
- 運輸業
- 医療・ヘルスケア
なお、業界別のデータについては、データの制約上、海外進出日系企業拠点数調査(2021年度版)を使用している(業界ごとの進出傾向は短期間で大きく変化するものではないため、進出先の検討に用いる参考データとしては十分に有効であるはずだ)。
2.1. 製造業
製造業における主な進出先を見ると、中国・米国・タイを中心に、インド、ベトナム、インドネシア、マレーシア、フィリピン、台湾といったアジアの国々が広く選ばれている。また、アジアが進出先の中心となっている一方で、欧州ではドイツが製造業の主要な拠点として強い存在感を持っている点も特徴的である。

2.2. 卸売業・小売業
卸売業・小売業の主な進出先を見ると、米国・タイ・中国を中心に、インド、台湾、インドネシア、ベトナム、ドイツ、カナダ、マレーシアがつづく。米国は購買力の高さと多様な消費者層を背景に、日本の食品・日用品・雑貨・化粧品などを販売するうえで最も重要な市場の一つとなっている。タイや中国は日本ブランドへの親しみが強く、日系の小売チェーンが海外に展開する先としてもすでに定番となっている地域である。また、インドやインドネシア、ベトナム、マレーシアといった新興国は、人口の増加や中間層の広がりを背景に「成長市場」としての期待が高く、現地の需要を取り込みやすい点が特徴となっている。

2.3. サービス業
サービス業の主な進出先を見ると、米国と中国を中心にタイ、インド、ドイツ、カナダ、ベトナム、フィリピン、インドネシア、フランスが挙げられる。米国は、外食・医療・教育・専門サービスなどの幅広い分野で市場の規模が大きいことに加え、購買力の高い消費者層にアクセスできる点から、もっとも重要な地域となっている。中国は、人口の多さに加えて日系のサービスに対する受け入れが進んでおり、外食・小売・美容・教育サービスなどの分野で長く主要な進出先となってきた。また、タイ・ベトナム・フィリピン・インドネシアといったアジアの新興国では中間層の広がりにより、外食や小売、医療・介護などの需要が急速に伸びている。これらの国々では日本の「質の高いサービス」に対するニーズが大きい点が特徴である。なお欧米では、ドイツやカナダ、フランスにも一定の進出が見られる。

2.4. IT・スタートアップ
IT・スタートアップ企業の主な進出先を見ると、米国・中国を中心にインド、タイ、ベトナムなどが挙げられる。米国は、シリコンバレーをはじめとして世界でも最大級のスタートアップの集積地があり、資金調達、人材、共同開発の相手、顧客基盤のいずれを取ってもきわめて有利な環境が整っている。中国は、規模の大きなデジタル市場とスピード感のある開発や実装力を背景に、EC・FinTech・AIなど多くの分野で高い競争力を有している。そのため、日本企業にとっても技術や市場にアクセスするうえで重要な場所となってきた。また、インドは高度なIT人材が豊富なことから、研究開発の拠点としての需要が根強い。タイやベトナムは、オフショア開発やASEAN市場をねらううえでの足場として存在感を高めていると言える。

2.5. 運輸業
運輸業の主な進出先を見ると、米国と中国を中心に、インド、タイ、ベトナム、インドネシアといった大きな市場が挙げられる。米国は、世界でも最大級の輸送や物流の需要を有しており、製造業やEC市場の広がりに合わせて、倉庫、フォワーディング、ラストワンマイル配送などさまざまなサービス分野で日系企業の進出が進んできた。中国は活発な製造活動や消費活動に加え、国際物流の拠点としての役割も高く、日系の物流企業にとって長いあいだ最も重要な地域の一つとなっている。また、インド、タイ、ベトナム、インドネシアでは自動車や電子部品などの製造業の集積が広がるにつれて、部品の輸送、倉庫の管理、サプライチェーンの構築に対するニーズが急速に高まっており、日本企業の存在感も増している。

2.6. 医療・ヘルスケア
医療・ヘルスケア分野の主な進出先を見ると、米国と中国を中心に、タイ、ドイツ、カナダ、スペインなどが挙げられる。米国は世界でも最大の医療市場であり、医療機器・医薬品・診断サービスなどあらゆる分野で需要が大きい。規制への対応は厳しいものの、高品質な日本製の医療機器や診断技術が受け入れられやすい市場である。中国は、急速な高齢化と医療に対する需要の増加を背景に、医療機器や病院の運営を支えるサービス、検査サービスなどの分野が広がっており、日本企業にとって成長の余地が大きい市場となっている。タイは、医療ツーリズムの中心地として高い水準の医療サービスや民間病院が集まっており、装置や診断機器に対する需要が強い国である。また、ドイツ、カナダ、スペインは医療の制度が整っており、技術や安全に関する基準が高い市場であることから、医療機器メーカーや検査サービス企業が進出するケースが多い。

3. まとめ
本記事では、外務省が公表している調査データをもとに日系企業の海外進出の全体像を整理し、次の3点を確認した。
- 日系企業のおよそ9割は、アジア・北米・欧州の3つの地域に集中していること
- 近年ではアジアの新興国(インド・ベトナム・インドネシア)の拠点数が増えており、アジアにおける進出先の分散が進んでいること
- 進出先が特定の地域に集まる、「業界ごとの進出先パターン」が見られること
これらの傾向は、海外進出の可能性や進む方向を考える企業にとってまず押さえておきたい前提となる。多くの企業はゼロから手探りで考え始めるのではなく、まずはよく選ばれている進出国を理解するところから検討を始めている。
なお、「海外進出をもう少し具体的に検討してみたい」と感じた方は、以下の記事も参考にしてみてほしい。100社超の海外展開事例をもとに、初めての海外進出で「失敗しない」ために押さえるべき考え方と進め方を5つのステップで解説している。
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