この記事にたどりついた方は、「自社の海外展開を考えてはいるものの、具体的に何から始めればよいのか分からない」と感じているのではないだろうか。本記事では、100社をこえるグローバル展開の事例を分析した結果をもとに、「失敗しないための海外進出の進め方」を5つのステップに分けて解説していく。
今回ご紹介する5ステップは次のとおりである。一見すると、あたりまえの流れに見えるかもしれない。しかし、各ステップで取り上げる具体的な進め方は、業種や規模の異なる100社をこえる海外展開の事例をもとに、失敗をさけるためのポイントを当サイトが独自に整理したものである。多くの事例を参考に、海外進出をはじめて検討する場合でも実際の進め方をイメージしやすいように努めた。
- 海外進出の目的をはっきりさせる
- ベストな進出先(国)を選ぶ
- 進出計画のたたき台を作る
- 進出計画をできるだけブラッシュアップする
- 海外進出するかどうかを最終的に決める
結論として、海外進出がうまくいくかどうかを分ける最大のポイントは、「海外進出の目的がはっきりしているかどうか」であると当サイトは考えている。目的が曖昧なままだと、「進出先の国をどう選ぶのか」「現地でどのように売っていくのか」といった重要な判断において、「なにを優先すべきか」という軸が定まりきらない。その結果、事業の方向性や会社全体の戦略とのつながりが弱くなり、海外事業だけが先走ってしまうなど、当初思い描いていた成果につながらないケースが多く見られる。
「海外進出をなんとなく考えはじめた段階」から「海外進出の進め方を具体的に描けていて、次のアクションが見えている状態」まで一気に進めるべく、本記事のセクション「1. 海外進出の目的をはっきりさせる」から読みすすめていただきたい。
1. 海外進出の目的をはっきりさせる
前述の通り、当サイトではこのステップが海外進出において最も重要であると考えている。本ステップでは、海外進出の目的を6つの手順で整理していきたいと思う。
- 海外進出を検討しはじめた「きっかけ」を言葉にする
- 海外進出で解決したい課題を深掘りする
- 経営・事業戦略に照らしてその課題は重要かどうかを確認する
- 課題に対する解決策をリストアップする
- 「海外進出」がベストな解決策なのかを評価する
- 定量的なゴール設定
海外進出において最初にやるべきことは、その目的を明確にすることである。前述のとおり、目的が曖昧なままだと進出先の選定や現地の販売戦略などの重要な意思決定において「なにを優先すべきか」という判断軸が定まらない。結果として、事業戦略や経営戦略との整合がとれなくなり、海外事業だけが独り歩きしてしまうなど、もともと期待していた成果が得られないケースは多い。だからこそ、「なぜ、いま海外進出するのか」をまず初めに整理することが重要である。
1.1. 海外進出を検討しはじめた「きっかけ」を言葉にする
進出目的の整理において最初に取り組むべきは、海外進出を検討しはじめた「きっかけ」を言語化することである。企業が海外展開を検討しはじめるときには、かならず何かしらの問題意識や課題が存在している。よくある例としては、次のようなきっかけがある。
- 国内市場の縮小に対応したい
- 将来の事業成長になんとなく不安がある
- 調達や生産にかかるコストの改善余地を探りたい
- 新たな収益の柱としての新規事業を考えている
- ブランド価値向上のためにグローバル展開を考えている
1.2. 海外進出で解決したい課題を深掘りする
言語化した「きっかけ」をもとに、その裏にある本質的な問題を特定する。このフェーズは「海外進出の目的」を明確にするうえで重要なプロセスである。まずは ”海外進出ありきの議論” は脇において、「自社が真に解決すべき課題」をひも解いていくことが重要である。
この段階で有効なのがトヨタ社内で用いられる「なぜなぜ5回」というアプローチだ。たとえば「国内の売上が頭打ちになりつつある」というきっかけについて「なぜ」を5回繰り返していくと、以下のとおり「本当に解決すべき課題」がみえてくる。
1回目:なぜ国内の売上が頭打ちなのか?
→ 新規顧客の獲得数が減っていることが分かった。
2回目:なぜ減っているのか?
→ 広告から獲得できる顧客数が減少し、広告1件あたりの獲得単価が上昇していることが分かった。
3回目:なぜ獲得単価が上昇しているのか?
→ 競合他社の広告投下量が増えており、国内市場の顧客獲得競争が激化していることが分かった。
4回目:なぜ顧客獲得競争が激化しているのか?
→ 国内市場が成熟し、新規顧客の取り合いが進み、各社が成長維持のために広告費を増やしている。結果として、供給過多になっている。
5回目:なぜ供給過多になっているのか?
→ 国内の人口減少や消費構造の変化などにより、業界全体の市場規模が伸びていない。将来的にもこの傾向は続くと予測され、国内市場でシェアを取るだけでは事業成長を実現しづらい構造になっている(= ここが「本当に解くべき課題」だとみえてくる)。
今回の例においては「海外進出が有効」という結論に至っているが、必ずしもそれが唯一の正解とはかぎらない。国内市場が伸びないとしても、まずは国内でのシェア拡大を目指すという戦略は十分にありうる。安易に海外へ出るよりも、国内で勝ちにいく方がはるかに楽なケースも多い。「海外進出ありき」で議論をすすめないよう、注意が必要である。
1.3. 経営・事業戦略に照らしてその課題は重要かどうかを確認する
「本当に解くべき課題」を特定できたら、次はそれが経営・事業戦略上どれだけ重要なのかを確認する。具体的には、以下の質問に答えていくと良い。
- この課題を解決すると、中長期の戦略にどのような良い影響があるのか?
- そもそも、海外進出という施策は自社戦略のどの位置付けに当たるのか?
- その他の経営課題とくらべ、海外展開は緊急性が高いのか?
海外進出は多くの企業にとって最もリソースを要する施策の1つである。そのため、ほかの経営課題との優先順位をくらべ、「本当にいま取り組むべきか」を考えるべきである。長い目で見て「まずは国内のシェア獲得にリソースを割こう」という判断にいたるケースは珍しくない。
1.4. 課題に対する解決策をリストアップする
これまで検討してきた課題が「いますぐ解決すべき重要な課題」と分かったら、次は想定される解決策を広くリストアップしていく。ここでは「海外進出」という手段にとらわれず、色々な角度から解決策を洗い出したい。というのも、解決策の検討をすすめる中で「そもそも海外進出が解決策として適していない」と分かるケースは多い。その場合、「なんとなく海外に出れば状況が良くなるのでは」と考えていた問題の正体は、実際には国内で取り組むべき別の課題であり、海外進出は本質的な解決策ではなかったということになる。海外展開はあくまで手段の一つであり、万能解ではない。あらゆる解決策を洗い出し、解決策をフラットに比べることが肝要だ。
1.5. 「海外進出」がベストな解決策なのかを評価する
解決策が出そろったら、次はそれらを評価していく。典型的な手法だが、以下のようなマトリックスを考え、それぞれの解決策が4象限のどこに位置するかを整理していく。

一般に、海外進出は見込まれるリターンが大きい半面、時間やコストのかかる施策であることが多い。もし、海外進出よりもリターンが大きく、負荷も小さい施策があるとすれば、当然そちらを優先すべきである。
また、いきなりグローバルに拠点を展開するのではなく、越境ECを用いたオンライン販売(例:海外アマゾン経由の販売)から試すという方が得策のケースもある。近年、小売業を中心に越境EC関連の税務相談を受けることが多くなっている。まずは小さくはじめてコストを抑え、市場ニーズを検証したうえで本格的な海外展開へと段階的にすすむ企業が多くなっていると考えられる。
1.6. 定量的なゴール設定
これまでの検討を通して海外進出が最適な手段であると判断されたとする。そのうえで最後に行うべきなのが、上位の経営戦略や長期的なビジョンで定めた目標を海外事業としてどこまで担わせるのか、海外進出におけるゴールを定量的に設定することである。例えば以下の図のように、長期的に2030年に売上30億円を目指すとして、国内事業では合計25億円が見込まれるのであれば、残りの5億円は海外進出で稼ぐ必要がある、といったイメージだ。

また、海外進出は「会社のあり方」そのものに深く関わる意思決定である。ゴールの定量化とともに、海外進出は自社の企業理念やビジョンとマッチしているかという点は必ず確認しておこう。もしも違和感がある場合は、企業理念やビジョンそのものを見直すタイミングなのかもしれない。
2. ベストな進出先(国)を選ぶ
海外進出の目的が整理できたら、つぎは進出先を決めるステップにすすむ。ここでは4ステップで候補国を絞り込んでいく方法をご紹介する。
- 候補をリストアップする(10カ国ほど)
- 進出困難な候補を消去法でおとす
- 進出目的と優先軸で 2〜3 カ国まで絞り込む
- “外部支援”を活用して「最も成功しそうな1カ国」を選定する
以下、それぞれについて詳しく解説していく。
2.1. 候補をリストアップする(10カ国ほど)
世界中の国々をゼロからしらべる必要はまったくない。候補のリストアップでは「業界の傾向」と「進出先として一般に有望とされる国」の2点だけをおさえておけば問題ないだろう。まずは10カ国程度の候補リストからスタートすると良い。
2.1.1. 「業界の傾向」をしらべる
すでに競合他社が進出している国は、市場性や制度面、運営面のハードルが(相対的に)低い可能性が高い。そのため、まずは同業の主要プレイヤーが展開している国をリストに加えておきたい。関連する記事へのリンクを貼っておくので、業界動向の把握に活用してみてほしい。
2.1.2. 「進出先として一般に有望とされる国」をしらべる
企業の海外進出をサポートする公的機関は、「市場の成長期待」「投資環境」「事業のしやすさ」などの観点から企業へのアンケートを行い、その結果を定期的に公開している。業種別の分析も多いため、リストアップに使いやすい。
2.2. 進出困難な候補を消去法でおとす
次は、「そもそも自社のビジネスモデルでは成立しない国」を除外する作業をおこなう。例えば、以下のいずれかに該当する国はリストから外してよいだろう。
- 外資規制が厳しく、単独での進出が難しい(例:業種規制、現地パートナー必須など)
- 許認可が取得できない(例:宗教・文化規制など)
- 現地のオペレーションが成立しない(例:物流が整っていない、スキル人材の確保が難しいなど)
- 治安や政治情勢が安定していない
- ガバナンスリスクが高い(例:行政の不透明性など)
ChatGPTなどの生成AIを活用する
以下のように指示をすると、候補国の「明らかにNGな理由」をソースつきで取得できる。調査の手間が大幅に減るのでおすすめである。
2.3. 進出目的と優先軸で 2〜3 カ国まで絞り込む
ここからは、「進出目的との整合性」と「自社が優先したいポイント」の観点で 2〜3 カ国まで絞り込む。
2.3.1. 「進出目的との整合」をみる
まずは「進出先のマーケットやビジネス環境が進出目的と整合しているか」という観点で候補国を絞り込む。すべての国をおなじ粒度で比べ始めると、情報量に引きずられ、本来重視すべき「進出目的との整合性」が後回しになりがちである。進出目的にそぐわない国は、この時点で外しておく。なお、進出目的によって重視すべき評価ポイントは異なる。たとえば、以下のとおりである。
- 売上の拡大を進出目的とする場合
→ ターゲット市場の購買力や主要都市圏の人口など、期待する需要が見込まれるかどうかを重視する - 中長期的な成長余地の確保を目的とする場合
→ 人口増加率や経済成長率、将来的な中間層拡大の見通しなど、市場の将来性を重視する。 - リスク分散を目的とする場合
→ 短期的な収益性よりも、政治・経済の安定性や為替リスクなど、ポートフォリオ全体への影響を重視する。
2.3.2. 「自社の優先軸」をみる
進出目的にフィットする国は複数になることが多い。このまま条件を網羅的に比べはじめると、各国のメリット・デメリットが錯綜し、判断がむずかしくなる。この段階で「自社がどのようなポイントを重視するのか」という優先軸を明らかにし、評価の重み付けを行うと良い。代表的な優先軸は、以下のとおりである。
- 小さくはじめられるか(i.e., なるべくコストを抑えて進出できるか。)
- 市場参入スピード(i.e., 参入障壁は低いか。外資規制は厳しくないか。)
- パートナー / 顧客獲得のしやすさ
- 言語 / 文化的なハードルの低さ
2.4. “外部支援”を活用して「最も成功しそうな1カ国」を選定する
これまでは「実現可能性」や「目的との整合性」などの ”足切り条件” を中心に候補を絞り込んできた。ここからは一歩すすめて、最終候補2〜3カ国における「成功可能性」を高い解像度で見きわめていく。具体的には、外部支援を活用して進出の解像度を上げながら、「最も成功しそうな1カ国」を選定する。その際、具体的な進出形態もあわせて想定しておけると良い。
2.4.1. 外部支援を活用して進出の解像度を上げる
JETROの活用
JETROは、海外進出に必要な情報の提供から専門家への相談窓口、実行段階でのサポートまでを幅広くカバーする独立行政法人である。マーケットの情報や各国制度の最新動向を無料で入手できる点が大きな特徴である。具体的なサービス内容や活用方法に関する記事へのリンクを貼っておくので、参考にしてみてほしい。
民間の海外進出サポートの活用
民間の海外進出サポートを利用する最大の利点は、国内では得られない現地の生の情報を取得できる点にある。市場調査会社を併用すれば、顧客データや競合状況といった定量的な裏付けも得られる。
2.4.2. 進出形態と併せて候補を比較する
海外進出を検討する際は、進出国を決めるまえから進出形態を整理しておくと良い。国ごとに外資規制や商習慣が異なり、選べる進出形態が限られるケースが多いためである。初期から国と形態の相性をあわせて比べることで、無駄な手戻りをふせぐことができる。以下の記事では、海外進出の代表的な10の進出形態と、それぞれのメリット・デメリットを整理している。こちらも併せて参考にしてみてほしい。
3. 進出計画のたたき台を作る
進出先が決まったら、つぎは 「いつ・だれが・なにをするのか」 という具体的な進出プランを準備する。プランニングすることなく進めてしまうと、現地法人の設立だけが先行し、採用や販売の準備がまったく追いついていない、といった状況に陥りやすい。
このステップでは、一般的な「最低限やるべきこと」をご紹介していく。なお、本記事であつかうのは共通項にとどまる。検討すべき事項は進出先や業態によって大きく異なるため、個別の論点については必要に応じて計画を肉付けしていく。
3.1. プロジェクトチームの発足
まずは 「だれがこのプロジェクトを引っ張るのか」 をクリアにしておく。チーム体制を最初に決めておかないと、意思決定が遅れ、スケジュールに遅延が生じやすい。チームメンバーの役割や会議体もこのタイミングで決めておけると良い。
3.2. 初期スケジュールと財務シミュレーションの作成
プロジェクト体制が固まったら、次に全体のスケジュールと資金計画のたたき台を作っておく。この段階では、法人設立や採用、販売開始までのおおまかな流れを時系列で整理し、初期投資やランニングコストの目安を把握できれば十分である。
3.3. 進出形態を決める
進出形態によって必要になる許認可・初期投資額・人員構成はおおきく変わってくる。前のセクション「2.4.2. 進出形態と併せて候補を比較する」にて検討した内容をベースに、どの形態で進めるのかを決定する。再掲になるが、全体像をつかむ上では以下の記事を参考にしてみてほしい。
3.4. 現地法人の設立
進出形態が決まったら、必要に応じて現地法人(または支店・駐在員事務所など)の設立手続きをおこなう。法人設立に関する手続きやリードタイムは国ごとによって大きく異なるため、早めの段階から現地の法律事務所や会計事務所と連携しておくと良い。また、法人設立そのものだけでなく、以下のような関連手続きも含めて対応しなければならない点にも注意したい。
- 法人の登記手続き
- 税務当局への登録および申請
- 現地銀行口座の開設
- ビジネスライセンス等の取得
3.5. バックオフィス体制の構築と外部委託先の選定
海外進出においては現地のビジネス環境や規制、商習慣をきちんと把握したうえで事業をすすめる必要がある。そのため、すべてを内製化するのではなく、業務の一部を現地の専門家などに委託することが一般的である。一般に、アウトソースされることの多い業務は以下のとおりである。特に会計や税務、労務、各種届出といったバックオフィス業務の立ち上げは、現地の実務やITツールに精通した会計事務所へシステム導入から運用まで一任してしまうという選択肢もある。
- 会計・税務(現地の会計事務所)
- 法務(現地の法律事務所)
- 労務・人事(現地の業務代行会社、人材紹介会社、会計事務所など)
- 総務(現地の業務代行会社、人材派遣会社など)
- 営業・販路開拓(現地代理店、営業代行会社など)
- マーケティング・プロモーション(現地のマーケティング会社、広告代理店など)
- 物流・在庫管理(現地物流会社、倉庫会社、フルフィルメント事業者など)
3.6. 社内規程・業務ルールの整備
事業運営を安定して行うためには最低限のルールづくりも欠かせない。特に海外拠点は本社から物理的に離れているため、「ルールがない」状態は「現地担当者の裁量が必要以上に大きくなる」ことにつながりやすい。その結果、意思決定や内部の手続きが属人化し、あとからの修正が面倒になるケースも少なくない。そのため、なるべく早い段階で大枠のルールを整備しておくことが重要になる。実務的には少なくとも以下のルールを最初に決めておくと安心できるだろう。
- 取引に関する基本ルール(例:契約締結の権限範囲、与信判断の基準、価格設定の考え方など)
- 社内権限に関する規程(例:契約・支出・採用などに関する意思決定権限の所在など)
- コンプライアンス・情報管理のルール(例:法令遵守の基本方針、個人情報・機密情報の取り扱いなど)
- 経費精算・支払フローに関するルール(例:経費の承認プロセス、支払方法、金額別の決裁ルートなど)
3.7. 拠点・オフィス・工場の立ち上げ
続いて、物理的な拠点の準備をすすめる。この点も、国・都市によってリードタイムが大きく変わるため、法人設立と並行して計画に組み込むと良い。
3.8. 原材料・商材の調達
製造業・小売業の場合は、原材料や商品の調達先も重要なポイントになる。サプライチェーンの設計は進出後の粗利率やキャッシュフローに直結するため、早い段階でおおよその試算をしておきたい。
3.9. 採用・人事体制の構築
現地で事業をまわすためには、ローカル人員の採用と人事体制の構築が必須となる。後回しにならないよう、いつまでに、どの職種を、どのような形で確保するのかについて、最低限の方針をこの段階で整理しておきたい。
3.10. マーケティング・販売体制の構築
すでに現地パートナーとの協業が決まっている場合にも、「現地パートナーに任せれば何とかなる」と楽観視してしまうことは典型的な失敗である。特に進出初期においては、海外での営業・マーケティング方針は日本本社側でハンドルし、現地パートナーには役割と裁量の範囲を明確にしたうえで実行を委ねるという体制を構築しておくことが重要である。
3.11. 最悪のケースを想定しておく(撤退・縮小)
海外進出は「成功する前提」で計画を立てるべきだが、最悪のシナリオも同時に考えておくことが重要である。「最悪の場合にどのように撤退するのか」「どれくらいの撤退コストがかかるのか」という視点を持っておくだけでも、進出時のリスクの取り方は変わってくる。進出計画における優先順位は低いが、最低限知っておくべき基本的な情報を把握しておけると良い。
3.12. 全体スケジュールの更新・進捗管理
4. 進出計画をできるだけブラッシュアップする
作成した進出計画は、この段階で必ずブラッシュアップを行う必要がある。特に法人の設立や社内ルールの整備といった定性的な整理に加え、財務計画を通じて「現実的な進出計画かどうか」を数字で裏付けておくことが重要になる。ここでは、最終意思決定前に必ず押さえておきたい「売上計画」と「費用計画」について、より精緻な進出計画にするためのポイントを整理していく。
4.1. 売上計画のポイント
海外進出において最も懸念すべき不確実性は「売上」である。このセクションでは、売上計画をブラッシュアップする具体的な方法を解説していく。
4.1.1. 複数回の現地視察による仮説の検証
一度の現地視察ですべてを決めてしまい、実際には想定と違う場面が多々あった、というケースは非常に多い。例えば以下に挙げたような情報は、現場視察を重ねなければ絶対に分からない。責任者は必ず現地に足を運び、「現地・現物」を自分の目で確認しておくようにしたい。
- ターゲット顧客・ペルソナ像
- 競合他社の状況
- 現地市場の購買力・消費行動
- 政府施策や規制の実態
- 現地ビジネスパートナーのビジネス実態
特に、最後の例にあげた「現地ビジネスパートナーの実態」については、パートナーのオフィスや事務所を一度は必ず訪問しておきたい。昨今ではオンラインでのやり取りだけでもスムーズに対応してくれる現地パートナーは多いが、その一方で、現地に実体のある事業を行っておらず、いわゆる詐欺被害につながるケースが実際に存在する。どれだけ信頼できそうに見えるパートナーであっても、事業の実態については、最終的に自分の目で確認しておくべきである。
4.1.2. 海外展示会に出展する
海外展示会は、「どれくらい売れそうか」という見通しの精度を短い期間で一気に上げることができる手段である。実際の会場では、「どれくらいの人が足を止めてくれるのか」「価格は高いと感じられるのか、安いと感じられるのか」「現地の人から見て、自社の商品はどこに魅力があるのか」といった点を、直接たしかめることができる。こうした情報をまとめて得られる点が、海外展示会の大きな価値と言える。
4.2. 費用計画のポイント
費用計画では、次の2点を重点的に確認しておきたい。
4.2.1. 初期投資・固定費の予測を精緻化する
初期投資や固定費については、だいたいの金額を置いたまま話を進めるのではなく、できるだけ実際の数字に近づけていくことが大切である。現地視察で見聞きした価格、外部の専門家から受け取った見積り、市場調査で集めたデータなどを使いながら、少しずつ数字の正確さを高めていく。
4.2.2. 補助金・助成金を活用し、コスト削減余地をさぐる
海外展開を支える補助金や助成金の制度はさまざまな地方自治体や団体において提供されている。これらをうまく使うことで、初期投資や固定費をおさえることができ、結果としてキャッシュフローの改善にもつながる。
5. 海外進出するかどうかを最終的に決める
進出計画の見直しが一通り終わったら、いよいよ「海外進出をするかどうか」を決める段階に入る。最終判断に進む前に、少なくとも次の二点は必ず確認しておきたい。
進出の目的ははっきりしているか
「なぜ、いま海外進出を行うのか」という目的は、社内でクリアになっているだろうか。進出先の国や地域、取るべき戦略、投資の規模や回収までの期間といった要素は、すべてこの目的から逆算して決まる。目的があいまいなままでは、途中で判断の軸がぶれやすくなり、計画の見直しや撤退の判断もむずかしくなる。
組織としてコミットできるか
海外進出は、担当者ひとりの頑張りだけで成功するものではない。経営陣やキーマンが一定の期間にわたって十分な時間と労力をかけ続けられるかどうかが、結果を大きく左右する。時間・人・お金といった経営の資源をしっかり投じるコミットメントが可能かどうか、改めて確認しておきたい。
6. まとめ
本記事で整理した5つのステップは、どの国でも共通して使える「海外進出の基本的な進め方」である。まずはこの手順に沿って、以下について棚卸していただくと良いかと思う。
- 海外進出の目的は何か
- どの国に進出すればうまくいきそうか
- そのための準備はどこまで進んでいるか
ここで改めて、本記事でご紹介した5ステップをおさらいしておく。
- 海外進出の目的をはっきりさせる
- ベストな進出先(国)を選ぶ
- 進出計画のたたき台を作る
- 進出計画をできるだけブラッシュアップする
- 海外進出するかどうかを最終的に決める
上記の5ステップに沿って手を動かすことで、海外進出の目的や自社に適した進出先、現実味のある進出計画がクリアに整理されてくるはずだ。
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